地山謙(謙遜の徳/謙虚にして困難を逃れる)
concession:譲歩/modesty:謙遜,控えめ,つつましさ,上品
万事謙譲に徹せよ。時に利あらずなり。
慎み、恭敬の心で対すべし。しからば運気は昇らん。
有大者不可以盈。故受之以謙。
大を有する者は以て盈つるべからず。故にこれを受くるに謙を以てす。
謙は公平均分である。保有することが既に大きい者はその権能を充満させてはならない。満つれば必ず欠けることになるからである。富めば富むほど我が身を低くして謙遜してへりくだるようにすべきである。
内に慢心を隠しながら人に見せるだけの上辺の謙遜ではない。自分の能力、自分の足りない所、自分の限界を知っているからこそ、自然に謙虚にならざるを得ないのである。
事を行うに際し、人にへりくだり、自分が表立たないようにしなければならない時。したがって運気は弱く、普通以下の時といえる。
何事も積極的には出られず、出れば必ず敗北する。
焦って事を起こそうとすると今一歩のところで駄目になったり、一生懸命に働いても無駄骨で利益に繋がらず、つまりは中途半端に終わりがちである。
じり貧の体制であるから、すべてに現状維持が大切で、みだりに動いたり欲に走ったりしないようにせねばならぬ。
こんな世知辛い世の中に今更「謙譲の美徳」でもないと思う人も多々あろうが、この卦では鋭意一番実行して見てはどうだろうか。
案外譲歩したことが先々で逆に有利になることがあるやも知れぬ。
[嶋謙州]
一貫した勢力が行われ、発展隆盛しますと、のぼせるというか、つけあがるというか、いい気になります。その時によく反省をして謙遜でなければならぬ、と教えるのがこの謙の卦であります。
易の六十四卦は、それぞれ私達に戒めの言葉を与えてくれますが、中でも内外六爻を通じて、すべてよい言葉を連ねているのは謙の卦だけであります。
そういう意味でこの卦は、非常に美しい円満な卦であります。
人間も謙遜な人というのはゆかしいものです。ことに知能、才能、徳義のすぐれて立派な人程、謙遜であるとゆかしい。
少し才能とか能力あるいは金力があるとそれをひけらかす人がありますが、これぐらい浅ましいことはありません。反感と軽蔑を覚えます。
しかし、人間というものは情けないもので、ちょっと成功すると、すぐ偉そうになり、女房子供にまで威張り散らす。
そういうことが一番よくないと痛いほどの教えであります。
[安岡正篤]
謙。亨。君子有終。
謙は、亨る。君子は終わりあり。
彖曰。謙亨。天道下濟而光明。地道卑而上行。天道虧盈而益謙。地道變盈而流謙。鬼神害盈而福謙。人道惡盈而好謙。謙尊而光。卑而不可踰。君子之終也。
彖に曰く、謙は亨る。天道は下済して光明なり。地道は卑くして上り行く。天道は盈てるを虧いて謙に益し、地道は盈てるを変じて謙に流き、鬼神は盈てるを害して謙に福いし、人道は盈てるを悪んで謙を好む。謙は尊くして光り、卑けれども踰ゆべからず。君子の終りなり。
象曰。地中有山謙。君子以裒多益寡。稱物平施。
象に曰く、地中に山あるは謙なり。君子以て多きを裒し寡きを益し、物を称って施しを平しくす。
初六。謙謙君子。用渉大川。吉。
象曰。謙謙君子。卑以自牧也。
初六は、謙謙たる君子。以て大川を渉る。吉。
象に曰く、謙謙たる君子は、卑以て自ら牧うなり。
六二。鳴謙。貞吉。
象曰。鳴謙貞吉。中心得也。
六二は、鳴謙す。貞にして吉なり。
象に曰く、鳴謙貞吉なるは、中心得ればなり。
九三。勞謙君子。有終吉。
象曰。勞謙君子。萬民服也。
九三は、労謙たる君子。終あり吉。
象に曰く、労謙たる君子は、万民服するなり。
六四。无不利。撝謙。
象曰。无不利撝謙。不違則也。
六四は、利あらざるなし、謙を撝え。
象に曰く、利あらざるなし、謙を撝えとは、則に違わざるなり。
六五。不富以其鄰。利用侵伐。无不利。
象曰。利用侵伐。征不服也。
六五は、富まず、その隣と以にす。以て侵伐するに利あり。利あらざるなし。
象に曰く、以て侵伐するに利あり、服せざるを征するなり。
上六。鳴謙。利用行師。征邑國。
象曰。鳴謙。志未得也。可用行師。征邑國也。
上六は、鳴謙す。以て師を行り、邑国を征するに利あり。
象に曰く、鳴謙す、志しいまだ得ざるなり。用て師を行るべし、邑国を征するなり。
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