坎為水(落とし穴、重なる険難/一難去ってまた一難)
endurance:忍耐/dark pit:暗い穴
万難集まり来る時なり。
誠心をもって、時の至るを待つべし。
物不可以終過。故受之以坎。坎者陷也。
物は以て終に過ぐべからず。故にこれを受くるに坎を以てす。坎とは陥なり。
物事は、いつまでも大いに過ぎていることはできない。過ぎることが長く続く時には、必ず困窮して困難な状況に陥る。艱難に陥る。
上の卦は坎の水であり、危険な穴である。下の卦もまた坎であり、水であり、穴であり、艱難である。上下の二重の艱難に陥ってしまって、動くことができない。
坎は川である。習坎とは、川を渡っても先にもう一つ川があり、困難なことが一つでは済まない。次つぎに険難に陥ることを表わすのである。いますぐ困難を解決することはむずかしい。
何物をも恐れぬ信念と、姑息を排した至誠とをもって激流に立ち向かう以外にない。
河水は流れて、満ち溢れることはなく、険阻に出会っても、低きに流れる性質を変えない。人も危険に際して誠意を変えることがなければ、やがてそれを乗り切って伸び栄える。たじろがずに進んでゆけば成功して、世人の尊敬を受ける。
この卦は、二重の艱難に陥り、どうにもならない状況に処する道を説く。
悩みや苦しみ、トラブルの渦中にあるといった状態がこの卦。
この時は決して焦ってはいけない。
ただ、耐え忍ぶことが至極大切で、うっかり前に進もうものならとんでもないことになる。
人に濡れ衣をきせられたり、深みにはまり込んでしまい、足を抜くこともできなくなってしまったりする。
運勢は最衰のときで無理やりに何をやっても落ち込むことが関の山。
特に男女や同僚等の人間関係には注意を配り、変に誤解を招くようなことはしないように。
やって来たことは最小限に食い止めて、これ以上深入りはしないこと。
全てに省エネで忍の一字、時節の到来を待ったほうがよい。
[嶋謙州]
坎は水であります。水はくぼみに入り、これを埋めて流れますから坎であります。水の重なる卦でありますから習坎といいます。苦労は人間を磨き、新たな勇気や力を生じ、努力していけば、必ず他より敬重せられると教えております。
[安岡正篤]
習坎。有孚。維心亨。行有尚。
習坎は、孚あり。維れ心亨る。行けば尚ぶことあり。
彖曰。習坎。重險也。水流而不盈。行險而不失其信。維心亨。乃以剛中也。行有尚。往有功也。天險不可升也。地險山川丘陵也。王公設險以守其國。險之時用大矣哉。
彖に曰く、習坎は、重険なり。水は流れて盈たず、険を行きてその信を失ず。維れ心亨るは、乃ち剛中を以てなり。行けば尚ぶことあり、往くときは功あるなり。天の険は升るべからざるなり。地の険は山川丘陵なり。王公は険を設けて以てその国を守る。険の時用大いなる哉。
象曰。水臶至習坎也。君子以常徳行。習教事。
象に曰く、水臶りに至るは習坎なり。君子以て徳行を常にし、教事を習わす。
初六。習坎。入于坎窞。凶。
象曰。習坎入坎。失道凶也。
初六は、坎を習ねて、坎窞に入る。凶なり。
象に曰く、坎を習ねて坎に入る、道を失って凶なり。
九二。坎有險。求小得。
象曰。求小得。未出中也。
九二は、坎に険あり。求めて小しく得。
象に曰く、求めて小しく得るは、いまだ中を出でざればなり。
六三。來之坎坎。險且枕。入于坎窞。勿用。
象曰。來之坎坎。終无功也。
六三は、来るも之くも坎坎たり。険にして且つ沈し。坎窞に入る。用うるなかれ。
象に曰く、来るも之くも坎坎たり、終に功なきなり。
六四。樽酒簋。貳用缶。納約自牖。終无咎。
象曰。樽酒簋貳。剛柔際也
六四は、樽酒簋あり、弐すに缶を用てす。約を納るる牖よりす。終に咎なし。
象に曰く、樽酒簋、剛柔際わるなり。
九五。坎不盈。祇既平。无咎。
象曰。坎不盈。中未大也。
九五は、坎盈たず。既に平らかなるに祗る。咎なし。
象に曰く、坎盈たず。中いまだ大いならざるなり。
上六。係用徽纆。寘于叢棘。三歳不得。凶。
象曰。上六失道。凶三歳也。
上六は、係るに徽纆を用てし、叢棘に寘く。三歳まで得ず。凶。
象に曰く、上六の道を失する、凶三歳なり。
コメント