澤天夬(おしきる・決断/処断)
decision:決断/break through:突破する,切り抜ける
まさに、決断の時なり。
強引に進めば、不慮の災いあるべし。
益而不已必決。故受之以夬。夬者決也。
益して已まざれば、必ず決す。故にこれを受くるに夬を以てす。夬とは決なり。
いつまでも益して増しふえていくならば、必ず裂け破れてしまうものである。
決は、川の水が堤を切って流れ出ること。夬は、決、決裂の決にあたる言葉で、切り開く、重大事を決行することである。
いちばん上に陰があり、五つの陽を抑えつけている。独裁者が世論を無視して圧政を布いている形である。たとい危険はともなっても、また非常手段に訴えても、この独裁者を排除(夬)しなければならぬ。剛毅な精神(乾☰)でそれを行なってこそ、人びとは悦び(兌☱)和らぐのである。それには不純な動機があってはならない。私利私欲を去って正義を貫くこと、また自己の足場を固めてから行なうこと、暴力はできるだけ避けることが大切である。
団体やグループでも、それがあまりに大きくなりすぎると、それは自然に内部から崩壊するようになる。またあるものに、あまりに多くを詰めすぎると、そのものは破れてしまい、中のものは漏れてしまう。大変危険な状態である。
この卦がでたら、右にするか左にするか、何か決断に迫られているときである。
現在、それがなくても、近い将来に必ず何かを決断せねばならぬ時がやってくる。
それだけに今は何事も心して掛かる事が大切で、それを怠ると将来決断の段階で非常に苦しい立場に追いやられることになり兼ねない。
運気は全く悪いということはないが、楽観は許されず、何時土壌が決壊したり、矢面に立たされたりするようなことが起きないとも限らない。
こんなときはじっと我慢して時を待つというより必然的に進まねばならぬ状態が出てくるから、目上の人か信頼できる人に相談して態度を決めることが肝要。
もうひとついえることは、目先の欲を捨て無欲になって対処することのほうが絶対に有利であるということだ。
[嶋謙州]
注意を怠りますと、益すればそこに失敗、災いも生じます。
せっかく到達して得た自由に伴う失敗、そこでまたひとつの注意を与えておるのが夬の卦であります。
自由というものは、無心でなければなりません、いろんな引っ掛かりを持っておるといけません。
どうかすると人格者、道徳家などには、よく神経のとげとげしい、小うるさい人がおるものですが、そういうものを自ら解脱するというのか、忘れるということを説いたのがこの卦であります。
大象に居徳則忌―徳に居て則ち忌む、とあります。
忌という字は、随分後世易学者の間に議論があった字であります。
いろいろ研究考証の結果、忌という字は間違いで、和するという字を誤り伝えたものだという結論に到達しました。
徳に居て則ち和する。これは人間がくだらない欲望だとか、あるいは警戒心だとかいう窮屈なものを解脱して、こせこせしない、無心がよいのだということであります。
[安岡正篤]
夬。揚于王庭。孚號有厲。告自邑。不利即戎。利有攸往。
夬は、王庭に揚ぐ。孚あって号ぶ、厲きことあり。告ぐること邑よりす。戎に即くに利あらず。往くところあるに利あり。
彖曰。夬。決也。剛決柔也。健而説。決而和。揚于王庭。柔乘五剛也。孚號有厲。其危乃光也。告自邑不利即戎。所尚乃窮也。利有攸往。剛長乃終也。
彖に曰く、夬は決なり。剛の柔を決するなり。健にして説ぶ。決して和らぐ。王庭に揚ぐるは、柔五剛に乗ればなり。孚あって号ぶ厲きことあり、それ危うきときは乃ち光いなり。告ぐること邑よりす戎に即くに利あらず、尚ぶところ乃ち窮まるなり。往くところあるに利あり、剛長じて乃ち終わるなり。
象曰。澤上於天夬。君子以施祿及下。居徳則忌。
象に曰く、沢天に上るは夬なり。君子以て禄を施して下に及ぼす。徳に居ることは忌む。
初九。壯于前趾。往不勝爲咎。
象曰。不勝而往。咎也。
初九は、趾を前むるに壮んなり。往いて勝たざるを咎となす。
象に曰く、勝たずして往く、咎あるなり。
九二。愓號。莫夜有戎。勿恤。
象曰。有戎勿恤。得中道也。
九二は、愓れて号ぶ。莫夜に戎あれども、恤うるなかれ。
象に曰く、戎あれど恤うるなきは、中道を得ればなり。
九三。壯于頄。有凶。君子夬夬。獨行遇雨。若濡有慍。无咎。
象曰。君子夬夬。終无咎也。
九三は、頄に壮んなり。凶あり。君子は夬夬。独り行きて雨に遇う。濡るるが若く慍らるることり。咎なし。
象に曰く、君子は夬夬、終に咎なきなり。
九四。臀无膚。其行次且。牽羊悔亡。聞言不信。
象曰。其行次且。位不當也。聞言不信。聰不明也。
九四は、臀に膚なし。その行くこと次且たり。羊を牽けば悔亡ぶ。言を聞くとも信ぜず。
象に曰く、その行くこと次且たるは、位当らざればなり。言を聞くとも信ぜざるは、聡不明なればなり。
九五。莧陸夬夬。中行无咎。
象曰。中行无咎。中未光也。
九五は、莧陸夬夬。中行にして咎なし。
象に曰く、中行咎なし、中未だ光いならざるなり。
上六。无號。終有凶。
象曰。无號之凶。終不可長也。
上六は、号ぶことなし。終に凶あり。
象に曰く、号ぶことなきの凶なる、終に長かるべからざるなり。
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